第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
シャンクスとの出会いまでを語り終えたクレイオは、深く溜息を吐いた。
ここに来てから3時間が経とうとしている。
厚い雲のせいで光は届かないが、太陽はかなり高く昇っているはずだ。
「・・・それで。シャンクスはお前に剣を教えたのか?」
「一通りは。でも、私はすぐにグランドラインの別の島に預けられたから、実際に教えてもらったのは数えるほどだけど」
シャンクスはクレイオを海賊にするためにレッド・フォース号に乗せたわけではない。
もちろん、本人が望めば海賊として育てたかもしれないが、ロザリオを肌身離さず持っている彼女が生きる場所は海の上ではないと判断したのだろう。
「シャンクスが私に住むよう言った教会があったのは、殺人なんか当たり前の荒れた島だった」
世界政府からも見放され、海賊や犯罪者の巣窟となっていた無法地帯。
倫理などないその島では性が乱れ、産み落とされた赤ん坊が目を開く前に捨てられるということなど日常茶飯事だった。
一応、政府は“救済”という名目で孤児院も兼ねた教会を建て、志願した司祭をそこに配属した。
ただでさえ治安が悪くて貧しいのに、捨て子は増える一方。
さらに、献金どころか金品を奪われる生活に耐えられず、当時は配属から一カ月もった司祭はいなかった。
「シャンクスは私に、そこで生きてみろと言ったのよ。それから、母親から教えてもらった祈りも欠かすな、と」
人殺しの私にはその資格はない、と言うと、シャンクスは太陽のような笑顔でクレイオの頭を撫でた。
“罪を犯したことのない人間なんていねェ。だから心配するな”
夢を追いかけることも、
誰かを愛することも、
神を信じることも。
全ては自由なんだ。
“この無法地帯で、お前は母親のような存在になってみろ”
それはクレイオの故郷で修道女をすることよりも遥かに難しくて、危険。
でも、お前は自分の身を守るくらいの力は、生まれながらにして備わっている。
他人まで守ることのできる力は、おれがこれから教えていこう。
シャンクスはそう言って、クレイオに新しい剣を手渡した。