第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
常人なら目を背けたくなるような惨状の中で、海賊は少女の目を真っ直ぐと見て微笑んだ。
「・・・償えるのかな・・・私に・・・」
「償えるさ」
男の大きな手が頭を撫でてくれる。
とても温かくて、優しい。
「そのためにおれ達が迎えに来たんだ」
赤髪の男はクレイオの顔を覗き込むと、ニコリと笑った。
「お前はミホークの娘だ。生まれながらにして剣の使い方を知っていることは、この状況を見れば分かる」
「・・・・・・・・・」
「でも、“扱い方”は知らねェようだな」
剣は人を殺す道具。
扱い方によっては、敵だけでなく使い手自身も滅ぼすこともある。
「おれがこれからお前を鍛えてやる。お前の中に眠る剣士の血が二度と暴走しねェように」
そうしないと、この幼い少女はまた人間を殺す。
自分をコントロールできないまま成長すれば、恐ろしい殺戮者になってしまうだろう。
そうなったら海軍が放っておくはずもない。
さらにミホークの血が流れていると分かったら、早々に抹殺される。
彼女を守るためにも、彼女から人々を守るためにも・・・
クレイオに正しい剣を教えるのは必要なことだ。
そしてそれができるのは、ミホークと同等の力を持つ自分以外にはいない。
「おれはシャンクス。お前の親父と同じ、海賊だ」
亡き海賊王から受け継いだ麦わら帽子をかぶり直し、ニヤリと笑う。
「お前の師匠になってやる」
ジュラキュール・ミホークの友人である剣士は、クレイオに向かって手を差し出した。
闇へと道を踏み外しかけている少女を救うために。
「おれについてこい」
海岸ではレッド・フォース号が待っている。
海は厳しいが、楽しいぞ。
「・・・うん」
母が殺されてから2週間。
そして、怒りに任せて人を殺した夜。
クレイオは生まれ育った島を捨てた。
たった一つ、母の形見であるロザリオだけを持って───