第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
突然現れた見知らぬ男達を、村人達は明らかに警戒していた。
だが所詮、ここにいるのは農夫や猟師ばかり。
海賊の相手になれるような者達ではない。
なまくらの剣や猟銃、農耕具と、海賊から見たらオモチャのような武器しか持っていない村人達は、赤髪の男らの迫力に負けて次々とその場から去っていく。
そして動ける者が全員いなくなり、視界が開けた神父の家の前は、血の海となっていた。
「これ、全部お前一人でやったのか?」
血の量、散らばった臓器の数。
それを計算すれば、ざっと10人は殺したか。
赤髪の男は、人間の“残骸”の中央に立っている少女に目を向けた。
「だが、ちょっとばかりやりすぎたな」
微笑みながら、血肉の飛び散った場所へ足を踏み入れようとすると、クレイオは初めて怯えた声で叫んだ。
「来ないで!!」
「ん?」
金髪とは違う髪の色・・・
この人達は異国の人だ。
「あなたはお母さんの処刑には関係ない。だから殺したくない」
でも・・・
「今・・・私は自分を止めることができない!! だから、来ないで!!」
父の剣そのものが意志を持っているのか、それとも彼女の身体に流れる父の血がそうさせているのか。
クレイオは自分の身体を自分でコントロールすることができなくなっていた。
もし一歩でも剣の間合いに誰かが踏み込めば、頭で何かを考えるよりも先に手が動いてしまう。
その人間を殺すために。
「ほう? じゃあ、おれがそばに寄れば、お前はそいつでおれを斬るというのか?」
「・・・そうなっちゃう・・・だって私はもうこんなに殺してしまった」
周囲に転がる大量の死体。
どれもクレイオの倍以上はある大柄な男達だ。
「でも、お前は自分で自分を止めることができねェんだろ。なら、誰かが止めてやらねェとな」
麦わら帽子から覗く赤い髪を、月光が照らす。
彼が一歩、また一歩と距離が縮めるたび、クレイオは恐怖を覚えていた。
剣を持つ手が初めて震える。