第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
悪魔が神父に預けたもの。
それは少女を守るための剣。
「これは・・・お父さんの・・・」
持ち手のところに施された装飾に見覚えがある。
お母さんの処刑の時に持っていた剣と同じものだ。
これを・・・残していってくれたのか。
恐る恐る握ってみると、不思議と手に馴染む感触がした。
「クレイオ!! まさか生きていやがったとは」
振り返ると、真っ赤な血が天井まで吹き上がっていた。
その真下では神父がゆっくりと仰向けに倒れていく。
「神父様!!」
なぜ・・・神父様が殺されなければならない?
悪魔の子を匿ったから?
神様・・・どうして神父様を見殺しになさったのですか?
「神父様が見殺しにされるなら・・・おじさん達もそうであるべき」
「あ?」
この剣は初めて握ったものよりも軽くて、刃が鋭い。
これなら・・・
「ぎゃあ!!!」
神父を殺した男の腹を突き刺す。
刃は子どもの力でも容易に貫通していた。
そして少し引いただけで内臓を抉りながら引き抜くことができる。
男は悶絶しながら転げまわった。
そのまま放っておけば失血死するだろう。
すでにその男から興味がそがれていたクレイオは、ゆっくりと入り口の周りを囲んでいる村人達の方を見た。
「私は、お母さんのようにおじさん達をゆるすことはできない」
村人達を一人一人殺していったところで、お母さんはもう帰らない。
でも、お母さんのように魔女の汚名を着せられて殺される人もいなくなる。
「悪魔め・・・!!」
誰かがクレイオに向かって石を投げた。
それが頬に当たり、一筋の血が流れる。
だがそれに驚いて泣くような“子どもらしさ”はもう、クレイオには無かった。
代わりにあるのは、怒りで金色に光る“鷹の目”。
「うん・・・私は悪魔だよ。だからこれからおじさん達に教えてあげるんだ」
死の恐怖。
死の痛み。
お父さんが残していった、この剣で。
母親が殺された日から最初の満月が昇った夜。
少女は初めて自らの意志と欲求で、人を殺した。