第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
神父が慌てて外に飛び出したが、時すでに遅し。
家を覗き見していた男はすでに遠くへ走り去っていた。
おそらく、一人暮らしをしているはずの神父の家から話し声が聞こえてきて不審に思った、村人の誰かだろう。
クレイオの姿も見られたに違いない。
「すぐに村人達がやってくる。お前はその前にどこか遠くへ逃げるんだ!!」
どこか遠くと言ったって、どこへ?
新世界の海に囲まれた、この狭い島のどこに安全な場所があるというの?
「私には行くところがない・・・」
村人達はきっと今頃、松明に火をつけている。
十字架のついた旗を持って、ロザリオを手に持って。
怖い顔に笑みを浮かべながら、もうすぐクレイオを殺しにやってくる。
自分も母のように磔にされるのだろうか。
すると、ドアを叩き割る勢いで激しくノックする音が響いた。
「神父様!! 魔女の子を匿っている事は分かってるんだ、そいつを引き渡してもらおう!!」
見れば、窓の向こうにはすでに無数の灯り。
魔女狩りの夜に見た松明の炎だ。
「ここには私しかいない!! お引き取り願おう!!」
だがそのような神父の偽りなど、村人達に通用するわけがない。
今度は鈍器で窓ガラスを割られた。
「魔女狩りの晩に死んだ者の弔いがようやく終わったばかりだというのに・・・その葬儀を取り仕切った神父がまさか悪魔を匿っているとは!!」
「酷い裏切りだ!!」
「裏切り者と悪魔は殺せ!!!」
村人達にとって、クレイオは伝染病や日照りをもたらした悪魔であり、魔女を処刑した炎を森中に広がらせた元凶。
生きているのなら、一番に殺さなくてはならない少女だ。
だが、いつまでもドアを開けようとしない神父に痺れを切らしたのか、ついに斧で木戸を壊し始めた。
「クレイオ・・・!!」
神父が何かを指さしながら叫んだ。
ほぼ同時にドアの木片が飛び散り、大きく空いた穴の向こうから目を血走らせた村人達が顔をのぞかせる。
“好きな方を選べ。今ここで殺されるか、この娘が無事に成人したあとで殺されるか”
あの日、悪魔がこの家に置いていったのは幼い少女と、もう一つ。
「その戸棚の裏に剣がある!!! それを持って逃げ───」
最後まで言い切る前に、神父の首筋には斧が振り下ろされていた。