第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
そうして始まった神父との生活。
たとえ血の繋がりがなくとも、神父は我が子のようにクレイオに接していた。
もちろん、魔女狩りを成立させてしまった罪の意識もあったのだろう。
だがそれ以上に、クレイオを通して彼女の母親の面影に触れているように見えた。
「いいかい、私が戻るまで明かりをつけてはいけないし、窓を開けてもいけないよ」
「はい、神父様」
神父がクレイオを引き取ったことは当然、島の人間には秘密にしてある。
クレイオはあの日の火事で死んだことになっているが、もし生きていることが知られたら今度は確実に殺されてしまう。
一度は神に仕える事を辞めようとした神父だったが、それからも廃屋を建て直して作った簡易的な教会でミサを行っていた。
村の人もこれまでと同様に通っているようだし、普通の生活を続けていた方が怪しまれないと思ったからだ。
伝染病も収まり、これで元の穏やかな生活が戻る。
そう思っていたのに・・・
人間の狂気はそう簡単に鎮まらない。
肉の味を覚えた猛獣が次の獲物を探し求めるように、彼らは新たな興奮を求めていた。
「魔女探しが始まっている」
魔女狩りから2週間後。
夕食を食べながら神父は険しい表情で言った。
クレイオの母親を殺しただけでは飽き足らず、村の人は次のターゲットを探し始めていた。
人間が生きたまま焼かれていく。
その光景は精神を高揚させ、異教徒を排除するという行為が異様な一体感を生み出す。
もはやそれは排他的な島の人間にとって、一種の娯楽でもあった。
「クレイオ、お前はここにいると危険だ。時期が来たらなんとかして島の外に連れていこうと思う」
「・・・・・・・・・・・・」
「実はお前の母親もずっとそのつもりだったんだよ」
過去にも魔女狩りの悪しき歴史があるこの島で、クレイオの母は自分がその標的になることを分かっていた。
“クレイオはすでに、とある方に頼んで島の外へ連れ出してもらいました”
あの言葉は本当だった。
我が子と自分の身の危険を感じた母は、すぐに行動を取った。
誤算だったのは、その人物が迎えに来るよりも早く魔女狩りが行われてしまったということ。