第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“好きな方を選べ。今ここで殺されるか、この娘が無事に成人したあとで殺されるか”
有無を言わせぬ、圧力。
お前は必ず殺す。
だが、もしこの子を育てるのなら、彼女が成人するまでは待ってやろう。
「教会を失い、神の名を用いて偽りを語った今、私はもう聖職者として生きることは許されない」
クレイオの母は、この神父のことを心から信頼していた。
神父もまた、クレイオの母のことは幼い頃から知っていた。
もしかしたら、誰よりも利口で美しく、信心深い少女だった母に、恋心にも似た感情を抱いていたのかもしれない。
「私に残された時間で、お前を育てさせて欲しい」
神父は目に涙を浮かべていた。
「今はもう命が惜しくて言っているのではない。これは・・・神と、お前の母親に対する償いなのだ」
どのみち、クレイオが一人で生きていけるようになったら、悪魔はこの神父を殺しにやってくる。
「ねぇ、神父様・・・」
少女はゆっくりと神父の方を向き、二つの金色の瞳で見つめた。
「生きていれば・・・あの人にまた会える?」
それはまさしく、“鷹の目”。
見据えられれば、猛禽類に威嚇された小動物のように委縮してしまう。
神父は震えながらも頷いた。
「それが神の思し召しならば・・・きっと会える・・・」
そして、その日が神父の最期の日となるだろう。
あの悪魔は、魔女狩りに関わった全員を殺す気でいる。
「うん・・・じゃあ、私・・・生きる」
首から下げたロザリオに触れていた幼い手に、一粒の透明な雫が落ちる。
一つ落ちれば、あとからあとからポタポタと落ちてくる涙。
「神父様・・・私、あの人にもう一度会いたい」
神様が導いてくれるよう、私はこれから一生懸命償うから・・・
どうかもう一度、お父さんに会わせてください。
母親が殺されてから数時間。
クレイオは朝日の中で、大粒の涙を流し続けていた。