第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「神父様・・・」
クレイオは床に膝をついて頭を下げる神父から目を逸らし、明るい窓の向こうを見た。
教会を林ごと燃やし尽くした火事のせいか、煙の匂いが充満している。
これはしばらく消えることはないだろう。
「あの人は・・・どこ?」
炎の中から現れた、悪魔。
“おれと一緒に来い”
とても・・・とても、怖い目をしていた。
でも、どこか懐かしい匂いがした。
「私、分かる・・・」
羽飾りの帽子に、黒い髪の人。
眉一つ動かさずに人を斬り殺すのに、自分を抱きしめてくれる手はとても優しかった。
「───あの人が私のお父さん」
あの男と母が、どのような関係かは分からない。
子どものクレイオには、二人の間に性交渉があったかなど考えも及ばないことだった。
ただ、命が生まれるためには、父親と母親の両方の血が必要なのだとしたら・・・
きっと、自分の身体に流れる血の半分は、あの人のものだ。
“───クレイオは私の子・・・ただ、それだけです”
だってそう考えないと、村人を赦して死んでいった母と自分はあまりにも違いすぎる・・・
「教えてください、神父様・・・あの人は・・・どこですか?」
私はもう、神に祈ることはできない。
聖母様に助けを求めることもできない。
だって、悪魔の子なのだから。
「クレイオ・・・お前が言うその男はもう、この島にはいない」
「え・・・」
「彼は海賊という、決して関わってはいけない男だ」
「かいぞく・・・?」
数時間前、眠るクレイオを抱きながら神父の家の木戸を叩いた男。
彼は全てを悟った目で神父を見つめると、血がベットリとついた剣を向けた。