第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
新月の夜が明け、クレイオが目を覚ますとベッドの中だった。
「ん・・・お母さん・・・?」
母親を焼き殺す炎のバチバチという音が耳の奥にまだ残っている。
けれども悪い夢を見ていただけなのかもしれない。
目をこすりながら起き上がると、そこは見慣れた小屋の風景ではなかった。
よく見れば、自分にかけられている布団も知らないものだ。
「起きたかい、クレイオ」
良く知った声に振り返ると、そこに居たのはクレイオと母が通っていた教会の神父。
どうやらここは、彼の家のようだった。
「神父様・・・お母さんは・・・?」
すると神父はクレイオの手を取り、まるで神に懺悔するように首を垂れた。
「すまない、クレイオ・・・私にはどうすることもできなかった」
「神父様・・・?」
「どうか私を神父と呼ばないでくれ・・・教会を守るどころか、お前の母親さえ守ることができなかった、ただの罪人なのだから」
「・・・・・・・・・・・・」
魔女狩りの日の日没前、神父はクレイオの母親が魔女であると認めるよう、村人達に要求された。
単一民族で近隣国から孤立している島では、不作や伝染病がすると、弱者を集団で攻撃することで、不安や不満が軽くなり、さらなる団結が生まれる。
だが、弱者にも“非”がなければ、神の怒りは攻撃した側に向けられてしまう。
だから、神に最も近い者、つまり神父の宣言が必要なのだ。
その弱者が、“悪魔と通じて人を破滅に導く者”であるという宣言を。
「許しておくれ、クレイオ・・・私は自分の命が惜しくて・・・彼らの望むままに、お前の母親が魔女であると宣言してしまった」
「・・・・・・・・・・・・」
信者からの献金で生活する神父にとって、その信者達から見放されるということは、収入が無くなることを意味する。
それに、理性を失った村人達の目は恐ろしく、彼が首を縦に振らなければきっと殺されていただろう。