第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
過去を語り始めてから、小一時間。
瓦礫に長時間座っていたせいで、さすがに尻が痛くなってきたのか、クレイオがわずかに身じろいだ。
その様子に気づいたゾロは一旦クレイオを立たせると、自分が着ていたジャケットを脱いでクッション代わりに下に引いてやる。
「ありがとう、ゾロ」
「ん」
ゾロは今まで一言も発さずクレイオの話に耳を傾けていた。
時々クレイオが言葉に詰まれば、“ちゃんと聞いているぞ”、“焦るな”と語りかけるように後頭部にキスをする。
それがとても心強く、このまま話してもいいのだと安心させてくれた。
「・・・・・・・・・・・・」
目の前にはミホークが作っただろう、巨大な十字架。
背中にはゾロの温もりと心臓の鼓動。
シャンクス以外の人間に母親の処刑を話したのはこれが初めてだが、ここまで心乱されずいられることに驚きを隠せない。
それは相手がゾロだからなのか、それとも自分がその過去を語れるだけ強くなったのか。
「これで一つ、腑に落ちた」
ゾロがふと口を開いた。
「お前と会ったばかりの頃に聞かれたことがずっと引っかかってたんだが、今の話を聞いて分かった」
「私が貴方に聞いたこと?」
「ああ・・・お前、おれの髪の色について聞いてきただろ」
“その珍しい緑色の髪、貴方の故郷では皆その色なの?”
サンジにマリモとからかわれるほど、ゾロの緑色の髪は特徴的だ。
あの時、クレイオが髪の色について質問したのは、単に物珍しさからだと思っていた。
“じゃあ、その色をしているせいで嫌な思いをしたことは?”
黒髪をしているというだけで悪魔扱いされ、周囲から忌み嫌われて生きてきたクレイオ。
それは、ゾロが“マリモヘッド”とからかわれる事とは次元が違う話だ。
「黒だろうが、金だろうが、紫だろうが、緑だろうが、そいつが持って生まれた髪の色、とやかく言われる筋合いはねェよな」
ゾロはクレイオの髪に鼻を埋めながら呟いた。
「けど、もったいねェ・・・お前の髪はこんなにいい匂いがすんのにな」
シャンプーは自分と同じものを使っているはずなのに、その香りは甘く誘うようで、こうして軽く嗅ぐだけでゾクゾクとする。