第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
男が自分をどこへ連れていこうとしているのか、クレイオには分からない。
途中、村人の死体が転がっている光景が、男の腕の隙間から見えた。
彼らは皆、火事に巻き込まれたというよりは、刃物で急所を一突きにされて息絶えたようだった。
そういえば、男が現れた時、剣からは血が滴っていた。
───この人が・・・殺した・・・?
男はおびただしい死体に見向きもせず、炎の中を真っ直ぐと歩いていく。
行くてを塞ぐものは何もなく、地獄のような業火すらも彼を避けるように道を作っていた。
その尋常ではない威圧感と殺気は、彼が悪魔以外の何物でもないことを示しているようだ。
私が悪魔の子なら・・・
この人は私の・・・・・・
「クレイオ」
男がクレイオの髪を撫でた。
人を殺した手とは思えないほどそれは優しく、同時に“恐れ”のような感情も入り混じっている。
「まだ夜明けには少しある・・・今は全て忘れて寝るがいい」
母の手とは違うけれど、男の手もすごく心地いい。
張りつめていた緊張が解けると、ものすごい疲労感がクレイオを襲い、気づけば男の胸の中で眠りに落ちていた。
轟轟と燃える炎。
悪魔が向かう先は地獄なのだろうか。
ああ、私はどのような罪も受け入れます。
だから、どうか・・・
「聖母様・・・どうか私をお守りください」
私を・・・お赦しください・・・
目を閉じる間際に零れた、クレイオの言葉。
それを聞き逃さなかった悪魔は眉間にシワを寄せ、苦しそうに金色の瞳を揺らしていた。