第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
もしかしたら彼は、火あぶりとなった魔女を迎えにきた悪魔なのかもしれない。
だとしたら、言わなければ。
お母さんは魔女なんかじゃない。
地獄へ連れていくべきなのは、この私なのだと。
私はお母さんを磔にした村人を赦すことなどできない。
これも神のご意志だというのなら、私は悪魔に身も心も捧げよう。
そして・・・復讐するんだ。
「・・・・・・・・・・・・」
魔女との“対話”が終わったのか、男はゆっくりとクレイオの方に目を向けた。
その瞳を見た瞬間、心臓がドクンと大きく鼓動する。
金色に光る・・・“鷹の目”───
「クレイオ」
男は何故か少女の名を知っていた。
「貴方は・・・だぁれ・・・?」
だが、その答えは男の口から明かされることは無かった。
血が滴る剣を鞘にしまうと、大きな手を差し出してくる。
「おれと一緒に来い」
その言葉に、少女の“鷹の目”が大きく見開いた。
“母ちゃんが言ってたぞ、お前が黒い髪をしているのは悪魔だからだって”
銃兵帽子に隠れた髪は、黒髪。
鋭利に整えられた、口髭。
はだけた胸元から香る、異国の匂い。
“クレイオの父親はいったい誰だろうね。見なよ、あの黒髪・・・まるで悪魔のようだ”
悪魔が黒髪をしているならば・・・やはりこの人は悪魔なのだろう。
だが、不思議と怖くはなかった。
男はクレイオを抱き上げると、炎が届かないように腕で包み込む。
そして、火が移っていく教会の本堂に背を向けると、ゆっくりと燃え盛る雑木林の中へ入っていった。