第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
教会を中心として、村を焼き尽くさんばかりに広がる炎。
四方八方で火柱が上がり、熱風が少女を襲う。
黒煙が立ち込める地獄の空は暗く、空気は喉を焦がすほど熱い。
集まっていた村人達はほぼ全員が逃げてしまった。
残るは、クレイオとアキレス腱を斬られて逃げられない自警団の男、そして村長だ。
煙のせいで視界が悪い。
どちらに行けば火の無い方なのか、分からなかった。
否、もう火の無い場所なんてないのかもしれない。
「お母さん、私も一緒に行く・・・」
この世界に、私を“可愛い天使”と呼んでくれる人はいない。
手を・・・繋いでくれる人はいない。
容赦のない火が、剣を握る少女を飲み込もうとした、その時だった。
「・・・!」
ゴウッという音がしたかと思うと、炎が左右に分かれ、一筋の道が現れる。
その“道”を悠然と歩いてきたのは、一人の男。
羽飾りのついた帽子をかぶり、細やかな刺繍が施されているシャツの前をはだけさせた、騎士のような風貌をしていた。
彼が右手に持つ剣を見れば、ベットリと血が付いている。
「・・・貴様は・・・!!」
男の顔を見た瞬間、村長が凍り付いたような表情をした。
だが次の言葉を発する前に、剥げかけた頭は首から切り離され、ゴロゴロと地面に転がる。
彼が忠誠心を持って剣を持つ騎士でないことは明らかだった。
村長の首を刎ねたあと、返す刀でクレイオの数メートル横にいた男の首も斬り落とす。
細い剣は、まるでギロチンのように易々と人間の骨と肉を一刀両断にしていた。
人間の油が飛んだのか、勢いの増す炎。
男はゆっくりと焚火の方に目を向けた。
「・・・・・・・・・・・・」
十字架に組まれた木に磔にされた魔女はもう、原型をとどめていない。
30秒・・・いや、1分。
男は何も言わず、焼身となった魔女を見つめていた。
今さら炎の中に両手を突っ込んでも、助けることはできない。
完全に息絶えている彼女に、まるで何かを語りかけているかのように、火の粉が飛んできても目を逸らさずにいた。