第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「殺した・・・子どもが人を殺したぞ!!」
裸足で立つ地面に溜まっていく、ぬるりとした血。
火あぶりとなったから魔女から飛び散る火の粉が、枯れた草に火をつけていった。
だが、それに気を留める者は一人もいない。
「やはり悪魔・・・! 処刑ではなく殺すしかない!」
島の自警団の男が、クレイオに向かって剣を向けた。
先ほど殺した男は指を切り落とされて蹲っていたが、今度は仁王立ちしている。
7歳のクレイオには一突きで頸動脈を狙うことはできない。
ならば。
「死ね、悪魔の子!!」
振り下ろされた剣先が左肩を狙ってきていることは、男の目を見れば分かった。
しゃがんでそれを躱すと、踏み込みが甘い男の右足が見える。
人間が歩行をするときに重要な、筋肉と骨を繋げる腱。
「・・・それを切っちゃえばいいの?」
誰かの声が聞こえてきたわけでもないのに、クレイオは無意識のうちに返事をしていた。
そして剣を持ち直し、低い体勢のまま男の右足首の後ろに刃を立てた。
“強さを秘める黒髪を持つ貴方だからこそ、これだけは覚えていて欲しい”
黒い髪が揺れる。
痛み悶える男の姿を冷ややかに見下ろす、“鷹の目”。
“何を言われようと、どんなに傷つけられようと、その人を赦してあげなさい”
魔女狩りを見物していた村人達が、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
恐怖のあまり、持っていた松明を落としていく者さえもいた。
焚火から飛んだ火の粉と相まって、教会を囲む雑木林に瞬く間に火の手が回る。
「水を持ってこい!!」
「この際、魔女と悪魔の子を一緒に燃やしてしまえ!!」
「バカ、何を言ってんだ!! 教会も燃えちまうぞ!!」
逃げるべきか、消火をすべきか。
いや、先にクレイオを殺した方がいい。
辺りはもうパニックとなっていた。
クレイオの傍らにはアキレス腱を斬られた男が蹲っている。
そこから流れる血が、さらにクレイオの足を汚した。
それを見て、母の言葉を思い出す
“赦しの心を持つ者にこそ、神の祝福はあるのですよ”
ごめんなさい・・・お母さん。
私はお母さんが望んだような子じゃなかった・・・