第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“強さを秘める黒髪を持つ貴方だからこそ、これだけは覚えていて欲しい”
憎しみのあるところに、愛を。
絶望のあるところに、希望を。
闇のあるところに、光を。
「このガキ・・・何か目がおかしいぞ」
クレイオの髪を掴んでいる村人が怯えた声を出した。
その一瞬をついて、縄を切るために持っていた剣が少女によって奪われる。
「うわ!!」
クレイオの身長の半分もある刀剣。
子どもにとってはかなり重いだろうその凶器を、クレイオは両手ながら軽々と持ち、村人にその剣先を向けていた。
「私は・・・お母さんのようにおじさん達をゆるすことはできない」
「それはガキのオモチャじゃねェぞ! 返せ!!」
剣を奪い返そうとして村人が右手を伸ばしたと同時に、5本の指が第二関節から切り離され、バラバラと地面に落ちる。
それがクレイオが剣を振ったからだと気づいたのは、右手から血が勢いよく噴き出した後だった。
「ぎゃあ!!」
「・・・・・・・・・」
これは、剣。
人を斬る・・・道具。
もちろんクレイオがそれを握るのは初めてだった。
だが不思議と、それをどう扱うべきかを知っていた。
まるで、クレイオの身体に流れる“血”が、剣を持つ手を操作しているかのように。
「お母さんは魔女なんかじゃない・・・」
憎しみに囚われてもいい。
絶望に押しつぶされてもいい。
闇に取り囲まれてもいい。
「おじさん達こそが悪魔だ」
───殺してやる。
ロザリオがジャラリと音を立てた。
だがクレイオはもうその存在すら忘れていた。
「悪魔は・・・地獄に落とさなければいけないんでしょ」
私はみんなの言う通り、悪魔なのかもしれない。
だって、おじさん達を赦すことができないから。
先ほど指を切り下ろした村人の頸動脈に向かって剣を突き刺す。
子どもの力では斬撃で人を殺すことはできない。
だが、刺突ならば可能であることを、クレイオの“血”が知っていた。
母を焼く炎とは別の赤が、辺り一面に噴霧されていく。
少女の“鷹の目”は、屍となって崩れ落ちた村人を静かに見据えていた。