第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“赦しなさい、クレイオ”
“聖母様のように愛で心が満たされた者は、人の罪を赦すことができます。そして、人の罪を赦すことができた時、貴方の心は愛で満たされているのです”
母の教えが頭をよぎる。
「ロザリオの祈り・・・聖母様・・・」
磔にされながらもその姿は、毎日唱えている祈りの言葉のごとく。
なんて優しい顔なのだろう。
人を赦すことのできる人間は、あんなにも儚く、そして愛溢れる表情をするのか。
クレイオの震える手は、ロザリオを固く握りしめていた。
石を投げつけられ、磔にされ、罵声を浴びせられても、母は誰も憎まず、彼らのしたことを赦している。
それほどの慈悲を持ってしても、村人達の狂気を鎮めることはできなかった。
「惑わされるな!! この女は魔女だ!!」
悲鳴にも近い声が飛び、松明の炎が揺れた。
「焼き殺せ!! 魔女を地獄へ落とせ!!」
「神の御名において!!」
母の身体に油が撒かれ、次々と薪に火が付けられる。
夜明け前の一番暗い空に向かって、瞬く間に炎の柱が上がっていった。
ただ、一人で赤ん坊を妊娠したというだけで。
ただ、その赤ん坊が他人とは違う容姿をしていたというだけで。
ただ、満月の晩に墓場へ通っていたというだけで。
誰よりも信心深い修道女だった母が、魔女として生きたまま焼かれていく。
「・・・お母さん!!」
クレイオが声を張り上げる、その一瞬早く母の身体は火に飲み込まれていった。
歓声が沸き上がり、村人達は魔女の命が絶えるのを待つ。
きっと彼らは気づいていなかっただろう。
だが、娘の目にははっきりと映っていた。
「────!!」
母が最期の力を振り絞り、ある言葉を叫んだのを・・・