第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
何が起きているのか分からず目をこすっていると、母に首からロザリオをかけられる。
「本来は首にかけるものではありませんが、幼い貴方はこうしておかないと失くしてしまう」
「・・・?」
失くす?
だってそれはいつもお母さんが大事に持っていて、お祈りの時にだけ渡してくれるものでしょう?
「さあ、ベッドから降りて・・・!」
「わっ」
まだ夢か現実か分かっていないクレイオの手を強く引っ張り、小屋の木戸を開けた瞬間だった。
月の無い夜のはずなのに、西の空の下に真っ赤な光の玉がいくつも揺れている。
「あの光は・・・なぁに?」
その光が星でないことは明らかで。
母は険しい顔で空の向こうを見つめると、光とは反対の方にクレイオの手を引っ張った。
それと同時に聞こえてきた、恐ろしい声。
「こっちだ!! 悪魔に身を売った魔女の家は!!」
魔女・・・?
クレイオが後ろを振り返ると、丘の向こうに真っ赤な光に照らされたおびただしい数の旗が見えた。
その旗に描かれているのは、十字架。
教会の人・・・?
どうして、そんな怖い声を張り上げながらこっちにやってくるの?
ヒラヒラと風に揺れる旗は、クレイオと母に地獄へおいでと手招きしているかのようだ。
「こっちへ!!」
母は家畜小屋のドアを開けた。
そして、牛が寝床とする藁の中にクレイオを押し込んだ。
「クレイオはここに隠れていなさい」
家畜の排泄物にまみれた藁の中は臭くて息苦しい。
しかし、クレイオの小さな身体をすっかりと隠してしまった。
「いやだ、お母さんも一緒にいて!」
「それはできません。お願いだから、言うことを聞いて」
「どうして? 私、ずっと我慢してたよ?!」
満月の夜、お母さんが一人でどこかに行っても我慢してた。
でも“今”はいやだ。
怖い・・・あの赤い光と十字架の旗に、お母さんが遠くへ連れて行かれるような気がする。
「クレイオ・・・」
すがりつく娘に、母は涙を浮かべていた。