第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
クレイオの故郷のように小さく閉鎖的な島では、他国では重罪とされる事でも当然として行われることがある。
その年は例年より降雨量が少なく、島は深刻な食糧不足に陥っていた。
さらに伝染病が猛威を振るい、老人と子どもを中心に多くの住民が命を落とした。
もし医学が発達した島か、貿易が盛んな島だったなら、こんな悲劇は起こらなかっただろう。
しかし、神しか救いを求める先がなかった頑迷な島民達は、災害を全て魔女のしわざだと信じ込んだ。
“災いが起こるのは、神の怒りのせいだ”
怒りの矛先はまず、教会の神父たちに向けられた。
教えと違うではないか。
自分達は毎日祈りを捧げているのに、どうして神の怒りに触れたのか。
すると教会は、自分達の権威を守るためにこう言った。
“災いは異端者達のせいである”
不安で気が狂いかけた住民達は、その言葉を鵜呑みにした。
“全ては異端者───つまり、魔女のせいだ!!”
攻撃対象を見つけ、拷問を与えることによって得られる優越感によって、彼らの不安感は和らげられるだろう。
また、異端者を排除することで、自分達の信仰がいかに強いものであるか、神に知らしめることができる。
そうやって狂気は生まれていった。
「魔女を処刑しろ! 神の御名において!!」
覚えているのは、その日が新月だったということ。
深夜0時を回った頃、クレイオは突然乱暴に揺り起こされた。
目を開けると、そこには絶望で真っ青になった母の顔。
「起きなさい、クレイオ! 今すぐ逃げるのです!!」
「お・・・母さん・・・?」
その頃、母はやせ細っていた。
農作物の収穫量が激減したせいで食料が手に入らず、庭でできた雑草のような野菜と、一頭の痩せた牝牛からやっと絞ったミルクでなんとか飢えをしのぐ生活。
それでも娘にだけはと、母は村の人に頭を下げ、手に入れたパンやハムの切れ端をクレイオに与えていた。