第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
村外れで母と二人だけの生活、それでも寂しくは無かった。
クレイオにとっては父がいないことが当たり前。
むしろ、心のどこかで神様こそ父なのではないかという期待もあった。
でも、たった一つだけ。
「クレイオ、お祈りを済ませたら早く寝なさい」
母は時々、奇妙な行動を取ることがあった。
「お母さんも一緒に寝て欲しい」
「今夜はごめんなさい。でも貴方が眠りにつくまでそばにいますよ」
「・・・・・・分かった」
まん丸の月が浮かぶ夜。
母は人知れずどこかへ出掛けていった。
「いい子ね、私の可愛い天使」
いったいどこへ、何のために出掛けるのか。
それを聞いたところで、母は決して明かそうとはしなかっただろう。
クレイオが寝てから家を出て、クレイオが目覚める前に戻ってくる。
もしかしたらその数時間で神様に会っているのかもしれない。
なら、我儘を言ってはダメだ。
母の子守歌を聞きながら、幼いクレイオは寂しさと心細さを押し殺すように目を閉じた。
「光さえも吸収してしまう黒色の髪を持つクレイオ・・・」
「・・・・・・・・・」
「憎しみは愛で癒える・・・絶望は希望で救われる・・・貴方は私の闇を照らす光」
夢と現の狭間で聞こえてくる、母の声。
「愛してるわ、クレイオ・・・」
母には憎しみがあったのだろうか。
絶望があったのだろうか。
子どものクレイオには分かる由もない。
ただ満月の夜の母は、月光に吸い込まれてしまいそうなほど儚かった。
何かに怯えているようにも見えたし、罪の意識に苛まれているようにも見えた。
だから、本当は行って欲しくは無かった。
「聖母様、罪深き私をお救いください・・・」
パタンと木戸が閉まる音。
カーテンの隙間から差し込む満月の白い光が、一人ベッドに眠る少女を照らしていた。