第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
クレイオが生まれたのは、人口500人足らずの小さな島。
誰もが顔見知りで、各村にある教会を中心とした信仰深い平和な島だった。
だがその“平和”は、異質な人間の混入を嫌う排他的な考えのもとに成り立っている。
「やーい、悪魔!!」
「こっちに来るな、クレイオ! 災いが起こる!!」
物心ついた頃から、自分が他人と違うことは認識していた。
話す言葉は同じ。
信仰する宗教も同じ。
食べる物も同じ。
だけど、容姿が他人と違う。
クレイオの知る“他人”とは、単一民族であるこの島の住民のこと。
彼らは皆、一様に冷たい色のブロンドヘア、サファイアのように青い目、血管が透けて見えるほど白い肌をしていた。
異国の人間には“世界が嫉妬するほど美しい人種”ともてはやされ、島民たちも己の容姿に誇りを持っていた。
自分たちこそ、神に愛された天使に一番近い姿である、と───
しかし、クレイオは違った。
髪はブロンドではなく黒髪。
瞳はサファイアではなく鷹。
天使のようなふっくらとした顔立ちではなく、鋭利な刃物のように尖った顔立ちをしている少女を、島の人間は気味悪がった。
「クレイオの父親はいったい誰だろうね。見なよ、あの黒髪・・・まるで悪魔のようだ」
「なんでも母親は、満月の晩に一人で身籠ったそうだよ」
「教会から追い出されないようにそう言い張っているだけさ。処女懐胎ならば、修道誓願の一つ、貞潔は守られたことになるからね」
クレイオと母親の背中を指さして中傷するのは、何も子ども達だけではない。
大人達の方がずっと辛辣だった。
何も言わない母に罵声を浴びせる老婆、からかい半分に修道服を刃物で切り裂く若い男達。
クレイオの知らない所で貞操の危機にも幾度となくあっていたという。
島の中でも特に美人で信心深く、神父様に一番信頼されていた母。
「ねえ、お母さん・・・どうして私はお母さんと違うの?」
この髪も、この顔も、どうしてお母さんと一緒じゃないの?
もし一緒だったら、私もお母さんもいじめられることは無かった?
教会へと続く道すがら、ずっと抱えていた思いを吐き出すように質問すると、母はクレイオに向かって微笑んだ。