第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
翌朝、5時45分。
クレイオが玄関へと続く階段を下りていくと、ドアの前で1本のロウソクの火がゆらゆらと揺れていた。
「よう」
普段は誰もが寝静まっているはずのこの時間。
そこに居たのはゾロだった。
「ゾロ・・・どうしたの?」
「具合が良くなってたら来るだろうと思ってな」
日課であるお祈りをするため、クレイオは毎朝6時に森の巨大十字架へ向かう。
そのことを知っているゾロは、30分ほど前から玄関の前で待っていた。
「おれも行く」
「・・・神様の存在を信じていないんじゃないの?」
「ああ、だから付いていくだけだ。文句ねェよな?」
腕組みを解いて、不敵な笑みを見せる。
いくら鈍いゾロでも、昨日は貧血を起こしたクレイオに一緒にいたくないと思われていることに気づいていた。
だから看病をペローナに任せ、自分はこうしてクレイオが自ら部屋から出てくるのを待っていたのだ。
「背負ってやろうか?」
「大丈夫。それより迷子にならないでよ」
たとえ拒絶されても、十字架のところへ付いて行くつもりだった。
けれどもクレイオはゾロを拒むどころか、一緒に行って欲しいような目をしている。
「バカにすんな。いくらおれでもあとを付いていくことぐらいはできる」
「どうだか。いくら前を飛んで道を案内しても、ゾロはいつも忽然と消えるってペローナが嘆いていたけど」
「・・・あの野郎」
ゾロはガリガリと緑頭を掻いてから、クレイオの額を指先で弾いた。
「どんなに霧が濃くて道が複雑でも、お前の姿だけは見失わねェよ」
はぐれても、五感の全てを使ってお前を見つけ出す。
最近、ほんの少しだが見聞色の覇気も扱えるようになってきたしな。
「本当・・・貴方の言葉はいつも直球ね。海賊はみんなそうなの?」
「さァな。うちの船長からしてそうだから、多分、そうなんじゃねェか」
「モンキー・D・ルフィ・・・シャンクスの友達ね。私も会ってみたい」
だが、一番そう思っているのはゾロ自身のはず。
あと1年。
一味が再集結するまでに、この島で極限まで技を磨かなければならない。
そして・・・ミホークを越えるのだろう。
「行こう、ゾロ」
ドアを開ければ、いつもと変わらぬどんよりとした重い空。
でも・・・
今日はほんの少しだけ気持ちが軽かった。