第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
“あの森は猛獣が多いぞ。ヒューマンドリルはお前の手に負える相手じゃねェ”
クライガナ島に上陸した日、シャンクスは一緒に城まで行くと言った。
それを固辞したのは、どうしても一人でミホークに会いたかったから。
シャンクスは多分、ミホークが私を殺す可能性もあると思っていたのかもしれない。
実際、私もそう思っていた。
きっと父は娘が生きていることを望んでいない。
それでも・・・一人で会いに行かなければ、あの人の瞳が私を映すことは一生ないと思った。
“なら、おれが覇気を飛ばすからその中から出るな。お前なら耐えられるだろう”
シャンクスに守られながら歩くシッケアール王国は、想像以上に暗く、陰気な場所だった。
染みついた死臭、肌が重く感じるほど不快な湿気、日光を通さない厚雲。
恐怖や緊張よりも、“なんでこの場所を選んだのだろう”という疑問で頭が一杯になっていた、その時。
「十字架・・・?」
クレイオの足がはたと止まった。
森の中にぽっかりと空いた空間の中央に建てられた、巨大な十字架。
鋭利な刃物で巨木を削り取って作ったそれを見た瞬間、ジュラキュール・ミホークという男の心の片鱗に触れたような気がした。
“ああ、おそらくミホークが作ったものだろうな”
後日ペローナに聞くと、内乱によって崩壊したシッケアール王国には、十字架を建てて戦死者を弔う余裕はなかったはずだという。
しかし、激しい戦闘の跡が色濃く残る場所にある十字架は、無骨ながらも完璧な形で、それを作った人間の剣の腕前が相当なものであることが伺えた。
───ここを祈りの場としよう。
そう決めてから毎日欠かさず、森の巨大十字架に通った。
そこで唱える祈りの言葉は、このシッケアールの暗い空でも真っ直ぐと天へ届くような気がした。
きっとそこにいるだろう、無実の罪と魔女の汚名を着せられて死んだ母のもとにも。
「聖母様・・・あの人も十字架を背負っているのでしょうか・・・」
母の最期の姿と同じように・・・