第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「前に、私がミホークの娘だって話したのを覚えてる?」
「ああ、覚えてるぞ」
ペローナはベッドのそばに椅子を持ってくると、そこに座ってクレイオの顔を真っ直ぐと見た。
ミホークと親子だと打ち明けられた時は驚いたが、だからといって何かが変わるわけでもない。
誰の娘だろうと、ペローナにとってクレイオは初めての人間の友達だ。
「私はミホークに育てられたわけじゃない。だからかな・・・あの人が自分の父親だって分かっていても、とても遠い人に感じる」
それが寂しいのだろうか、クレイオの目に暗い影が宿る。
「この島にきて随分経つけど、ミホークが私と目を合わせてくれたことはほとんどないよ」
何も言わずそばにいさせてくれるし、言葉をかければ返してくれる。
でも、彼と視線が合うことは無かった。
まるで、クレイオの姿を瞳に映すことを嫌っているようにさえ思える。
「“親子”ってそういうもんじゃねェのか? 私には分からねェが」
「そっか、ペローナは・・・」
記憶もない頃に両親に捨てられ、ミホークと同じ七武海のゲッコー・モリアに拾われたと聞いている。
海賊に育てられた運命を、彼女はいったいどう思っているのか。
「もし、本当の父親が目の前に現れても、私にとってソイツはただの他人だ」
「ペローナ・・・」
「私の父親はモリア様、ただ一人。それ以外のジジイなんか願い下げだ」
普段は男勝りで勝気なペローナが、モリアのことを思い出したのかふと悲しそうに瞳を揺らした。
「モリア様は・・・生きてる。死んだって言われてるが、私は信じねェ!」
ミホークも記憶にある限り、モリアは生きていたと言っていた。
今は海のどこかで身を隠しているのかもしれない。
「私はそのうち、モリア様を探しに出るつもりだ」
「どこにいるか、生きているかも分からないのに?」
「ああ・・・だって、会いたいからな!」
「───会いたい・・・か」
ペローナのモリアに対する真っ直ぐな言葉。
それは、クライガナ島の空のように雲が張り巡らされていたクレイオの心を一瞬にして晴らしていく。