第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
昔を思い出して貧血を起こすなんて、いつ以来だろう。
母が死んだ日、自分は母の望むような子ではなかったことを思い知らされた。
毎日、神への祈りの言葉を唱えているくせに、自分の中には悪魔の心が巣食っている。
その矛盾がとても恐ろしく、そして気持ちが悪かった。
シャンクスの教えを忘れて少しでも自分を失ったら、また大勢の人を殺してしまうかもしれない。
───あの悪魔のように。
「クレイオ、起きてるか?」
午後8時。
浅い眠りから覚めて微睡んでいると、ペローナがクレイオの部屋を訪ねてきた。
「スープを持ってきてやったぞ」
「ごめん、心配かけて。わざわざありがとう」
「まったくだ! おかげで私が夕食を作るハメになったんだぞ」
カリカリした口調とは正反対の、心配そうな目を向けてくるペローナ。
差し出してきたのは、ずいぶんと時間をかけて煮込んでくれただろうチキンスープだった。
「ありがとう、ちょうどお腹がすいていたところ」
「良かった、食えるようだな」
消化を考えて野菜は細かく刻まれているし、鶏肉もスプーンでつついただけで崩れるほど柔らかい。
一口すすってみると、塩コショウとハーブの優しい味が口の中に広がった。
「おいしい」
「ゾロには粥を持っていけって言われたけどな。あんな味気ねェもんより、こっちの方がずっと栄養があるだろ」
「ゾロの故郷はお粥が定番なのかもね」
「クレイオの故郷では、こういう時に何を食べるんだ?」
何げないペローナの質問に、クレイオの手がピタリと止まる。
収まっていた胃のムカつきがぶり返しそうだ。
「・・・私の故郷でもチキンスープだった」
「そうか。やっぱり、私が正解だったようだな!」
ペローナはフフンと勝ち誇った顔をしている。
おそらく、粥かチキンスープのどちらを持っていくかでゾロと言い合いしたのだろう。
そんな二人を想像して、クレイオは小さく噴き出した。
おかげで気持ちが少し軽くなる。
自分にはなんやかんや言って心配してくれる人がいる。
そのことが嬉しかった。