第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
クレイオを後ろから抱きしめているゾロの腕は、これでも加減しているのだろうがとても強い。
だが、今はそれが安心できた。
顔を見られていないのも好都合。
「私はミホークの心が分からずにいる。ここに来たのはそれを知るためなのに」
「アイツの心?」
「それに、私は貴方が怖い」
朝の菜園の濃い霧が、二人を包み隠していく。
しっとりと濡れた手で、クレイオはゾロの右頬を撫でた。
「ゾロの欲望が怖い。このクライガナ島にいる目的を忘れてしまいそうになるから」
背中に感じるゾロの鼓動はとても力強いのに、静か。
本当に強い人なんだな、と思う。
「だから、私を守ってくださいってずっとお祈りしてた。感謝よりも自分のことばかり・・・格好悪いけれど」
眼前を埋め尽くす、ホウレン草畑の緑色。
ゾロの髪の毛と同じだ。
すると、ゾロはクレイオの耳元で小さく呟いた。
「いいんじゃねェの、それで」
無骨な指がクレイオの唇をなぞる。
「海賊相手にカッコつけなくていいだろ」
“自分のことばかり”はお互い様。
ゾロはミホークがクレイオの父親だと知っても、自分の野望を変えるつもりはない。
時が来ればこの島を出るつもりでいるし、それまでは欲望のままに彼女を抱きたい。
「どんなに取り繕ったって、どうせいつかは化けの皮が剥がれるんだ」
頬にゾロの唇の感触。
自分を抱きしめる力はこんなに強いのに、後ろから落とされるキスはとても優しい。
「だったら、余計な苦労をする方がバカだ」
泣き言を言いたいなら言えばいい。
救いが欲しいなら求めればいい。
いるかいないか分からない神より、目の前の海賊に頼る方がよっぽど現実的ってもんだ。
まぁ、それなりの見返りと代償は必要だがな。