第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
翌日は、霧の濃い肌寒い朝だった。
「恵み溢れる聖母様・・・罪深い私達のために、今も、死を迎える時もお祈りください」
いつものように森の中の大きな十字架の前で跪き、祈りの言葉を口にする。
この時は集中しなければならないのに、昨晩のミホークの表情が頭から離れなかった。
特につらそうでも、悲しそうでもなかったのに、窓から無月の空を見上げる父の横顔は、何かを憂いているようで・・・
その理由が分からないことが、とても苦しい。
「私達の罪をおゆるしください」
ゾロはミホークがクレイオの父だと知っていながら、彼女を抱くと宣言した。
それなのにミホークにクレイオを心配するそぶりはなく、その事について何かを言うわけでもない。
ゾロも相変わらず顔を合わせれば“抱きたい”と言ってくるし、自分がここにいる意味を見失ってしまいそうだ。
「聖母様・・・私達を誘惑に陥らせず、悪からお救いください」
ミホークは私を否定も拒絶もしません。
でも、私を受け入れてもくれないのです。
ミホークにとって、私は弟子のゾロよりも遠い存在なのかもしれない。
「でも、それでもいい」
例え、ミホークが私を娘として認めていなくても・・・
「私は彼の愛を確かめるためにここに来たのだから」
愛があったか、無かったのか。
それを確かめたら、私はこの島を出よう。
クレイオは立ち上がると、巨木から切り出した十字架を見上げた。
亡き母が教えてくれたのは、神への祈りではなく、神の子を産んだ聖母への祈りの言葉。
もちろん、礼拝の時は神への祈りの言葉も唱える。
けれど一番心休まるのは、聖母に捧げる「ロザリオの祈り」だった。