第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「ミホーク?」
新聞を握る手に力が入っていることに気づき、クレイオはミホークの顔を覗き込んだ。
心なしか殺気も感じる。
ミホークの脳裏には、決して風化することのない記憶が蘇っていた。
一筋の月光も差さない夜。
世界で一番美しい人を失った。
彼女の面影を残すものはもう・・・どこにもない。
「疲れているの・・・?」
心配そうにのぞき込んでくるクレイオ。
その顔立ちは、どことなく自分に似ている。
否。
似過ぎている。
“クレイオはお前の娘なんだろ”
ゾロにそう尋ねられた時、冷静を保つことが難しかった。
他人に言われずとも、その容姿を見れば明らか。
その黒髪も、シャープな顔立ちも、“鷹の目”と称される瞳も。
全て自分と同じ。
それが・・・
その事が、どれだけ耐え難いことか。
「クレイオ、今日はもう寝ろ」
“出ていけ”とまでは言わなくても、今はその顔を見ていると忌々しさが込み上げてくる。
その事を悟られないよう、ミホークは新聞をサイドテーブルの上に置き、先にソファーから立ち上がった。
「分かった・・・お休みなさい」
クレイオも顔を曇らせながら立ち上がると、折りたたまれた新聞紙が視界に入る。
そして、その見出しの文字に瞳が大きく広がった。
クレイオの目に飛び込んできたのは、現在は世界政府によって禁止令が出ているはずの“魔女狩り”が、サウスブルーの小さな島で行われていたという記事。
「魔女・・・狩り・・・?」
それは一面を飾るような内容ではないのに、新聞はわざわざその面を上にして折りたたまれている。
ミホークが興味を持ってそれを読んでいたことの証だ。
「・・・!」
クレイオは慌ててミホークを見上げた。
だが、彼は窓の前に立って漆黒の闇を見つめているだけ。
その背中は、“何も語りかけるな”と訴えているようだった。
「おやすみなさい・・・ミホーク」
本当は聞いてみたい事がたくさんある。
けれど、それを聞くことができるのは、貴方の世界に足を踏み入れることを許された時だけ。
ミホークは、この暗く、怨念が渦巻くシッケアール王国で、何を思っているのだろう。
クレイオはいまだ触れられない父の心を想い、静かに部屋の扉を閉めることしかできなかった。