第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「ミホーク、コーヒーを淹れたわ」
「ああ」
夕食後、ミホークはいつも自室で一杯のコーヒーを飲む。
別にそれが習慣というわけではないのだろうが、クレイオが淹れたてのコーヒーを持ってドアを叩けば、必ず返事をしてくれた。
また、七武海という立場からか、よく新聞を読んでいた。
世界情勢に興味があるというよりは、見込みのありそうな海賊・・・つまり、麦わらの一味のような海賊達のニュースを選んで読んでいるようだ。
「ゾロの仲間たちの情報は得られた?」
「足取りすらつかめていない。海軍は麦わらだけでも捕まえようと必死になっているがな」
「海軍はゾロがここにいる事も知らないんでしょ?」
ミホークが座っているソファーの横にある、サイドテーブルの上にコーヒーを置く。
大人三人が余裕で座れる大きさのソファーだが、クレイオはミホークのすぐ隣に腰を下ろした。
「・・・・・・・・・・・・」
並んで座ることに、特に意味はない。
ただ、この距離が許されていることが少しだけ嬉しかった。
ミホークも特に何かを言うわけでもなく、クレイオのやりたいようにさせてくれる。
寄りかかれば肩を貸してくれるし、どんなに夜が遅かろうとも好きなだけ居させてくれた。
思えば、初めからそうだ。
“初めまして、私はクレイオと申します”
シッケアール王国に来た日、追い返されること覚悟で名乗ったクレイオに、ミホークは眉一つ動かさなかった。
そして一言。
“好きにしていればいい”
拒絶は決してしない。
だが、歓迎もしていない。
「・・・今日は新月なのかしら。外がいつもより暗い」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオの言葉に、ミホークも窓に目を向けた。
確かに、いつもは雲の隙間からかろうじて見えているはずの月が、今宵はその姿が無い。
月の無い夜・・・か。