第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「それで、これからお前はどうする?」
別れの時。
クレイオをシャボンディ諸島外れの入り江に連れてきたホリヨシは、どこか心配そうだった。
「やはり人攫いがいるシャボンディ諸島にはいない方がいい。魚人島に戻りたくないというのなら、せめて近隣の島でも」
「ここじゃなきゃダメなの」
ロシナンテが今、どこの海にいるのか分からない。
でも、海軍本部の近くで、“新世界”への海底ルートの入り口であるこの島には、いつか必ず立ち寄るはず。
“私はこのシャボンディ諸島で貴方を待っている・・・ずっと・・・”
「ここで待っているって約束したから。私はここに居なくてはいけないの」
「そうか・・・」
恐ろしい兄の凶行を止めるために、一人で航海に出たという海兵。
ホリヨシは彼を知る由もないが、きっとヒマワリのように力強く、正義感に溢れ、そして心優しい男なのだろう。
「それにしても、つらいだけだろう。ただ待っているだけというのは・・・」
「うん。ロシナンテは時々、無茶をするから」
「無茶?」
クレイオは寂しそうに微笑み、胸に手を当てた。
「ロシナンテは、どうしても助けたいと思った人の事は、自分がどうなっても助けようとするから・・・」
自分の命すら投げ出して、その人を守ろうとする。
短気で無鉄砲なところがあるから、それだけが心配。
どうか・・・自分の命は大事にして。
もし海で何かあったら私の名前を呼んでね。
「私が助けに行かなきゃ・・・だから、一番“声”が聞こえやすい場所にいたいの」
そう言って微笑むクレイオに、ホリヨシはこれ以上引き留めることができなかった。
刺青が完成するまでの1カ月、ともに生活をしたから分かる。
彼女はとても信念の強い女性であるという事。
それはどこか・・・
亡き妻を彷彿とさせた。