第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
“貴方と生きる事が許されないのなら、家を捨てます”
そう言って自分と駆け落ちをする事を選んだ妻。
彼女のためなら、ホリヨシの名と国を捨てる事など苦ではなかった。
愛する人の忘れ形見である娘のため、自分を偽って生きてきたが、それも今日まで。
「勝手ながらお前に約束させてくれ。この先、拙者の技術を必要とする者が現れたら、惜しみなくそれを発揮することを・・・」
「それなら、私はロシナンテと再び会えるまで、このシャボンディ諸島のどこかで貴方達を見守っているわ」
「ああ・・・気高き人魚に恥じぬ生き方をしてみせる───」
ホリヨシの覚悟を受け止め、入り江から海に飛び込んだ人魚。
その背中に咲き誇るは、ヒマワリの花。
水中でも美しく咲く花に、ホリヨシとその娘の顔に笑みが浮かんでいた。
数年後、ホリヨシはその言葉通り、シャボンディ諸島に逃げてきた大勢の奴隷を救った。
「拙者は5代目ホリヨシと申す!!! お主らの過去を消し、人間としての名誉と自由を取り戻してやろう!!!」
聖地マリージョアで魚人の冒険家フィッシャー・タイガーが暴れまわり、彼によって種族関係なく多くの奴隷が解放された。
ホリヨシはそんな奴隷達に本当の“自由”を与えるため、天竜人の烙印を刺青によって消していった。
そのホリヨシの姿は、まさに鬼神。
恐ろしくもあり、偉大でもあった。
そして絶え間なく皮膚に針を突きさしていく父を見て、娘はその小さな手でノミを持つことを決めた。
父から伝説の彫り師の名を受け継ぐべく───