第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「これは、受け取れない・・・お前の背中に刺青を彫ったのは、金のためではない。拙者自身のためでもあったのだから───」
この真珠が、一介のサムライが持っていいような代物でないことくらい分かる。
自分は貧しいが、娘を飢え死にさせないぐらいの蓄えはある。
「これはお前自身のためにも持っておけ。今後、何があるか分からんからな」
真珠を突き返そうとしたホリヨシに、クレイオは何故か可笑しそうに笑った。
「ふふふ、貴方もあの人と同じことを言うのね。でも、“今度こそ”受け取ってもらう」
「今度こそ・・・?」
クレイオはホリヨシの手を両手で包み、真珠を握りしめさせた。
これはもう貴方のものよ、と言わんばかりに。
「貴方は素晴らしい技術を持っている。それによって助かる人がこの先、必ずいるはず・・・私のように」
「クレイオ・・・」
「もし貴方の身に何か悪いことが起こったら、その真珠を差し出せばいい。貴方に使われるなら、私は本望だから」
それによっていつか争いが生まれたとしても・・・
大切な人を守るため、偉大な技術を残すためだと思えば、この心は耐えられる。
「だから、受け取って。私のためにも・・・」
ロシナンテ。
貴方も私のこの決断を許してくれるでしょう?
貴方は私に心をくれた。
ホリヨシは私に自由をくれた。
貴方達は二人とも、私を天竜人から解放してくれた、
大切な恩人───
「承知した・・・では、これはありがたく頂戴する」
ホリヨシは姿勢を正すと、大事そうに真珠を抱え、クレイオに向かって一礼をした。