第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
刺青の出来栄えは、彫った後のケアで左右される。
たとえば、消毒クリームをこまめに塗り替えないと細菌が入り、絵が台無しになってしまうこともある。
クレイオは背中全面に彫ったため、薬を塗り、包帯を巻き替えるのはホリヨシの娘の仕事だった。
「1カ月間、よく頑張ったな」
刺青が完成したのが2日前。
最後の針を刺した時、ホリヨシは手の震えを覚えた。
長らくノミを持っていなかったにも関わらず、我ながら圧倒されるほどの墨絵に、改めて自分が受け継いだホリヨシの技術の偉大さを思い知る。
「今日からは普通の生活をしていいぞ。海に入ってもいい」
「絵を・・・見てみたい」
まだ一度も自分の背中を見たことがない。
ヒマワリとは・・・いったいどのような花なのだろう。
ホリヨシは姿見と手鏡を持ってくると、クレイオに向かって頭を下げた。
「礼を言う。お前のおかげで、拙者はホリヨシとしての自分を取り戻すことができた」
「どうして貴方がお礼を言うの? 天竜人の烙印を消してくれたのは貴方なのに」
変な人、とクレイオは口元に笑みを浮かべた。
そしてホリヨシから手鏡を受け取ると、背中を映した姿見にそれを合わせる。
そして、息が止まった。
天竜人に捕まえられ、マリージョアに連れていかれた日。
背中に焼きゴテを押し付けられた。
「5代目ホリヨシ、貴殿の背中に一世一代の絵を彫らせていただいた」
焼きゴテの痛み以上に覚えているのは、絶望感。
自分の身体に一生消えない傷跡が残ってしまった。
しかもそれは、天竜人の奴隷であることを示す烙印だ。
でも・・・
「その花が、向日葵だ」
今、クレイオの背中には烙印などどこにもなかった。
その代わりにあったのは───
「これが・・・ヒマワリ・・・・・・・」
大輪の花を咲かせる、幾本ものヒマワリだった。