第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
ああ、わかる。
避けようのない別れの時が近づいていることを。
「ロシナンテ・・・二本の足を持つ貴方・・・どうか忘れないで」
海には様々な表情がある。
優しく迎え入れる時もあれば、激しく牙を剥く時もある。
「貴方がもし海の魔物に襲われたら、私は津波よりも早く駆け付けて貴方を助けよう」
私に与えられた、見聞色の覇気と泳力を使って。
どこにいても貴方を助けに行く。
「貴方がもし海の上で道標を失ったら、私は千の泡になってでも貴方の行く道を指し示そう」
貴方にもらったこの心で、貴方をどこまでも愛していく。
「愛するロシナンテ、どうか忘れないで・・・」
二人にどんな運命が待ち受けようと・・・
私の身に降りかかるどんな苦しみも、絶望も、耐え抜いてみせる。
「どこの海にいても、私の愛は貴方とともにあることを」
貴方に出会うまで、私の心と身体は別々の所にあった。
それを一つにしてくれた。
私の全てはそんな貴方のためにある。
貴方が望むなら世界で一番美しい宝石をいくらでも生み出そう。
貴方が望むなら世界に争いを生まないために、涙を二度と流せないようこの目を潰してしまおう。
愛してる、ロシナンテ。
どうか・・・この愛を忘れないで。
「お前のその言葉・・・絶対に忘れねェ・・・!」
海で遭難しかけたら、お前の名前を叫ぼう。
たとえ届かなくても、命の最期にお前の名前を口にできるなら、きっと笑顔で逝けると思うから。
おれの心に誓って、約束するよ。
数日後。
船を手に入れたロシナンテは、ドフラミンゴ海賊団が最後に確認されたという島を目指して出航した。
クレイオはシャボンディ諸島の海域ギリギリまでロシナンテの後を追い、船が水平線の向こうに消えて見えなくなるまで見送っていた。
いつか二人はまた出会える───
そう信じ、“人魚の涙”を強く強く握りしめながら。