第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「お前の尾ヒレが二股に分かれる前に帰ってきたとしても、その時はお前を抱いてどこまでも行くぞ」
「私、地上では何もできないよ」
「いいんだ! クレイオはおれが抱えて歩く。海兵に戻っているのか、ただのおっさんになっているのか分からないけど、おれがお前を一生大事にするよ」
たとえ、異種間同士は結ばれない運命だとしても。
そんな宿命など乗り越えて一緒にいよう。
地上ではおれがお前を抱き上げ、
海中ではお前がおれを抱きしめる。
そうやって二人、手を取り合って歩いて行こう。
「愛してる、クレイオ」
お前がこれまで受けてきた全ての苦しみを包み込んでしまうほどの愛を。
お前がこの先ずっと笑顔でいられるだけの愛を。
おれがずっと与え続けるからな。
想いが溢れ、二人の唇が重なったその瞬間───
クレイオの瞳が濡れて輝いた。
「ロシナンテ・・・」
それは悲しいからじゃない。
痛いからじゃない。
苦しいからじゃない。
嬉しくて・・・幸せで・・・
「クレイオ・・・?」
心から愛おしくて・・・
ポロリと二人の間に落ちた一粒の宝石。
「ロシナンテ・・・愛してる・・・」
それは心優しい海兵の深い愛に触れた、人魚の涙だった。
「クレイオ・・・お前・・・」
まさか、これほどのものだったとは・・・
“月の雫”と称されるのも頷ける、光をたたえた清らかな珠。
その虹色の輝きは、見ている者を吸い込んでしまうほど神秘的で、美しい。
「貴方の心がとても優しくて・・・私の心がそれに応えた」
クレイオは涙で濡れた瞳でロシナンテを見上げた。
「私が涙を流すのはこれで最後・・・どうか一緒に持っていって欲しい」
「・・・でも・・・これはすごく高価なものなんだろ?!」
宝石には疎い自分ですら分かる。
見ているだけで心奪われてしまいそうなこの真珠の価値を。
するとクレイオは自分の膝の上に落ちた真珠を拾い上げ、ロシナンテの手の平に乗せた。
「お願い、持っていって。これを私の代わりに・・・」
もしお金が必要になったら、これを売ればいい。
きっと貴方の役に立つはず。