第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「分かってくれ、クレイオ。おれはお前を連れてドフィの所に行くことはできない」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前が“真珠の人魚”だから言ってるんじゃねェ。お前は・・・お前だけは死なせたくねェんだ・・・!」
自分を抱きしめるその手が震えている。
“声”を聞かずとも、ロシナンテが何を考えているのか痛いほど分かった。
「・・・ロシナンテは酷い・・・私には泣くなって言うくせに、貴方はいつも泣いて・・・」
「・・・・・・・・・」
「私を死なせたくないって言いながら・・・貴方はそんな恐ろしいお兄さんの所へ行くのね」
「・・・ごめん・・・」
そう言われたら、何も言うことができない。
でも、クレイオを危険な場所に連れていくことは絶対にできなかった。
言葉に詰まってしまったロシナンテを見上げ、クレイオは寂しそうに微笑む。
「謝らないで・・・貴方が謝らなければならない事は、何一つないのだから」
「・・・でも・・・」
「一つだけ・・・約束して」
ロシナンテの背中に腕を回し、胸板に頬を寄せる。
トクントクンと大きな心臓の鼓動が聞こえてきた。
「ドフラミンゴの暴走を止め、ドレスローザを守ることができたら・・・私を迎えに来て」
温かい潮風が二人を包む。
天から降り注ぐ日差しがクレイオの鱗を七色に輝かせた。
「私はこのシャボンディ諸島で貴方を待っている・・・ずっと・・・」
今は結ばれることのない二人だけど・・・
「私には足が無いから貴方と同じ道を歩むことはできない。けれど・・・30歳になったら尾ヒレは二股に分かれて、地上を歩く事ができるようになる」
その時は貴方の隣を歩かせて欲しい。
それまで貴方は“海兵”として、“弟”として、自分の使命を全うして。
そして私は“真珠の人魚”として、“貴方を愛する者”として、涙を流さないように生きていく。
「貴方がここに戻ってきたその時は、私も一緒に連れていってくれる?」
ロシナンテを抱きしめる腕が震えている。
健気なその想いが、どうしようもなく愛おしくて仕方がなかった。
「ああ、約束する!」
死を覚悟でドフラミンゴの所へ迎おうとしているロシナンテにとって、それはたやすく交わせる約束ではなかった。
それでも微笑みながら、クレイオの髪を撫でる。