第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「クレイオには見聞色の覇気があるんだな」
「ケンブンショクのハキ・・・?」
「生きとし生けるものの心の声を聴くことができる、とても珍しい能力だよ」
ロシナンテはそっとクレイオの肩を抱き寄せると、不思議そうに見上げてくる彼女を優しく見つめた。
「考えてみれば、貝から生まれるという“真珠の人魚”たちは、みんな見聞色の覇気を持っていたんだろうな」
“過去に私と同じ運命を背負って生まれた人魚は、みんな同じ最期を遂げた”
真珠を求める欲深き者は、人魚に痛みを与え、悲しみを与え、涙を流させようとする。
そうして生まれた真珠は争いの引き金となり、それによって多くの犠牲者が生まれる。
そのことに心を痛め、果てしない苦痛から逃れるために自らの命を絶っていった、過去の“真珠の人魚”たち。
「生まれつき見聞色の覇気を持っている人は、誰かが苦しんでいるとその声を強く感じ取ってしまい、自分の心を痛めてしまうんだ」
大珠アコヤガイの意思
声帯を持たない生物の意思
自然の意思
クレイオは声無き者の声を感じ取り、その想いを知ることができる。
「そうだとしても・・・そのハキのおかげで貴方を助けることができて良かった」
「クレイオ・・・」
「だって貴方は・・・」
そっと胸に手を置き、幸せそうに微笑む。
「私に心をくれた人だから」
自分がなぜ、真珠の涙を流す運命を持って生まれてきたのかは分からない。
でも、こう考えたら・・・?
“真珠の人魚”の悲しき宿命を止めることができる、ドンキホーテ・ロシナンテという海兵と出会うためだった、と───
「私の涙で傷つく人がいると分かった時から・・・どうやったら泣かないで済むかだけを考えて生きてきた」
拷問を受け
身体に消えない傷跡を残され
目の前で同族が殺されていくうちに・・・
「心を捨てることで、悲しみや憎しみを感じないようにした」
それは自己防衛本能だった。
おかげで何を見ても、何をされても、一切の感情を覚えなかった。