第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
海軍本部に近く、新世界を目指す海賊が集まるため、今まで何度も訪れたことがあるシャボンディ諸島。
島を形成するヤルキマン・マングローブから分泌される樹脂でできたシャボン玉が、太陽の光を受けながら漂う、とても綺麗な場所だ。
ロシナンテはクレイオの隣で胡坐をかき、大きく息を吸った。
「助けてくれてありがとな。こうやって空気を目一杯吸えるのも、お前のおかげだよ」
「どこか痛いところはない?」
「ああ、大丈夫だ! おれは頑丈だからな!」
満面の笑みでピースをしてみせると、安心したように微笑むクレイオ。
だが彼女の腕や腹に無数の切り傷ができているのを見て、ロシナンテは胸が苦しくなった。
「ごめんな・・・おれのせいでケガさしちまって」
「これくらいのケガ、なんともない。背中に烙印を押された時の方がずっと痛かった」
「・・・・・・・・・」
そうだ、クレイオは今まで想像もつかないほどの拷問を受けてきた。
だが、それももう今日限り。
「お前はすごいなァ・・・おれは確かに軍艦と一緒に沈んだはずなのに・・・結局、助けられたのはおれだったな」
「だって、ロシナンテの“声”がずっと聞こえていたから・・・貴方がどこにいるのか、すぐに分かった」
「その事なんだが・・・」
当たり前だが、人間は水の中で声を発することはできない。
それに先ほどクレイオは、海のど真ん中から数十キロも離れているマリンフォードに居たセンゴクの声を頼りに泳いだと言っていた。
いくら魚人類と人間の聴覚が違うとはいえ、普通では考えられないことだ。
だけど、ロシナンテには一つ心当たりがあった。
クレイオがあまりにも他人の心の機微を悟ってしまうこと。
そして・・・
大珠アコヤガイという、声帯を持たない生物である“母親”と意思の疎通ができていたということ。
それらが意味するのは・・・