第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「ここはシャボンディ諸島の外れだ。クレイオがお前をここまで連れてきてくれた」
「シャボンディ諸島・・・? なんで・・・」
自分は確かにインペルダウンに行く途中で船を沈没させたはず。
たとえ救命艇に乗って海流を辿ったとしても、ここには着かないはずだ。
ということは、他の海兵と一緒にここまで来たのだろうか。
だとしたらクレイオは・・・またインペルダウンに───!!
顔色を変えて飛び起きようとしたロシナンテを、クレイオの手が制止する。
「貴方を海の中から救い出したあと、私はどこに行けばいいのか分からなかった」
遠くには避難した海兵達が乗る救命艇が見えていた。
だけどそこに行けば自分はまた捕まり、ロシナンテのしてくれた事が全て無駄になる。
しかし、いつまでもロシナンテを海水につけておくことはできなかった。
人間は魚人類と違って水の中では呼吸ができないし、体温も奪われてしまう。
「困っていたら、聞こえたの。貴方の無事を祈る声が・・・」
“どうか無事でいろよ、ロシナンテ・・・”
それは遥か彼方から聞こえてきた声だった。
“命を無駄にするんじゃないぞ。生きてもう一度その顔を見せろ”
「それはとても力強く、優しい声で・・・その声を道標に泳いでいたら、海軍本部の正義の門に辿り着いた」
避難した海兵達を受け入れるために開いた「正義の門」。
人知れず紛れて入ってきた人魚を最初に見つけたのは、センゴク自身だった。
“クレイオ・・・! まさかお前、ずっとロシナンテを抱えて泳いできたのか・・・?!”
“センゴク・・・ロシナンテを・・・早く・・・!”
「センゴクの声があったから、私はたどり着くことができた。ずっとロシナンテの名前を呼んでいてくれたから」
「センゴクさん・・・でも・・・どうして・・・」
するとセンゴクは呆れたように微笑みながら、昔そうしていたようにロシナンテの髪をガシガシと撫でた。
「どんな馬鹿息子だろうと・・・心配しない親はいないだろう」
大将という立場上、いつもと変わらぬ振る舞いをしてはいたが、胸の中ではずっとロシナンテのことを案じていた。