第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
お願い、あの人を殺さないで。
“おれはロシナンテ”
“ともだちになろう”
貴方に出会った日・・・
私は初めて、人間を見て“怖い”という印象を持たなかった。
ドジで、
泣き虫で、
カナヅチで・・・
温かい太陽のような人。
「ロシナンテ、どこ・・・?」
“お前が大切で・・・好きだから・・・”
真珠には目もくれず、私のそばにいてくれた人。
自分の事よりも私の事を大切にしてくれた人。
「ロシナンテ・・・」
“約束する。おれは命に代えてもお前を救う、と”
───たとえ・・・
たとえ、運命の女神から祝福されない恋であろうとも。
「私は・・・貴方を死なせはしない・・・!!」
太陽がなければ生命は滅んでしまうように。
貴方がいなければ、私の心は“無”と同じ。
船の残骸と渦で一寸先も見えない闇。
近づけばきっと、船もろともペシャンコになってしまうかもしれない。
でもあの中にはまだロシナンテがいるんだ。
「必ず・・・見つける・・・!」
クレイオは軍艦を見下ろしながら、そっと目を閉じた。
胸に手を当て、意識を集中させる。
ロシナンテ・・・どこ?
“海に嫌われて泳げない海兵さん”
貴方が生きていてくれるなら。
この崩潰していく船から、貴方の微かな温もりを探し出してみせる。
ロシナンテ・・・
ロシナンテ・・・
暗闇に包まれる海。
さっき聞いた爆音のせいか、耳が正常に働いていなかった。
視覚も、聴覚も機能しない中、それでも残った感覚に全てを集中させる。
と、その時だった。
漆黒の闇の中に、浮かび上がった一点の光。
それは命の灯か、それとも単なる炎の欠片か。
ポウッと淡く光るそれは、クレイオにある声を届ける。
“お前は自由だ・・・クレイオ・・・・・・”
温かくて、優しくて・・・
涙腺を刺激する、その声。
“愛している”
その瞬間、クレイオの全身の筋肉に強い電流が走った。