第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
ロシナンテ自身も手が震えるほど、恐怖と罪の意識に苛まれている。
だがその手を隠すように後ろで組み、唖然としている海兵を真っ直ぐと見つめた。
「一つの判断の遅れが、取返しのつかない事につながりかねない」
「ロ、ロシナンテ中佐・・・」
「全員、持ち場を離れて救命艇に乗れ! 真珠の人魚はおれが連れて行く」
「はっ!!」
「いいか、おれ達を待つ必要はねェからな! 救命艇に乗ったらすぐに船を離れろ、これは命令だ!」
海兵はロシナンテに向かって敬礼をすると、救命艇が積んである場所へと走っていく。
その時すでに船は、まともに立っていられないほどの傾きとなっていた。
「・・・急がねェとな・・・!」
ガラガラと滑車の鎖が走る音とともに、10名乗りの小舟が海に下ろされ始めたのを確認してから、ロシナンテも牢へと急ぐ。
───一瞬の遅れが・・・取返しのつかない事になる。
背後では“避難だ、早くしろ!!”と叫ぶ声。
この船はもう長くはもたない、誰もがそう感じているのだろう。
バタバタと走る足音が響いている。
「クレイオ・・・!!」
この傾きだ、もうクレイオも気づいているだろう。
「うぉ!!」
火が何かに引火したのか、船が大きく揺らいだ。
そのせいでバランスを崩し、本来は天井からぶら下がっているはずのランプに顔をぶつける。
「やべェな、思っていたよりも沈没まで早そうだ」
ボイラー室に引火しなければいいが・・・
あそこが爆発したら、一瞬で海の藻屑だぞ。
もはや真っ直ぐと歩くことさえも困難で、よろめきながら牢に行くと、クレイオは鉄格子に掴まりながら震えていた。
「クレイオ!!」
「ロシナンテ・・・!!」
「待ってろ、今出してやるからな」
早く開けてやりたいのに焦っているせいで手が滑り、なかなか鍵が鍵穴に入らない。
船底から浸水が始まっている、ここにももうすぐ海水がやってくるだろう。
自分は悪魔の実の能力者。
海水が身体に触れたら一瞬にして力を奪われる。
「落ち着け・・・落ち着け、おれ!!」
ようやくガチャンと鍵が外れ、扉が開いた。