第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「艦砲が暴発したのか・・・?! いや、そんな音は何も聞こえなかったぞ!!」
「ロシナンテ中佐に報告を・・・!!」
「いや、それよりもまず排水ポンプを作動させろ!!」
船腹に空いた直径1メートルほどの穴から、ものすごい勢いで海水が流れ込んできている。
もはや排水ポンプが正常に作動しないことは、火を見るよりも明らかだった。
「本部に・・・! 海軍本部に連絡しろ!!」
「ダメだ、排水できません!! このままでは船の傾きを抑えられない」
「ちくしょう、技師は乗船してねェぞ!!」
海軍本部に緊急信号を送るため、一人の海兵が通信室へ走った。
今から救援が来るまで、およそ数十分。
船の傾きから見て、持ちこたえることはできないだろう。
「なぜだ、あたりには海賊もいないのに・・・!!」
「誰かが故意に大砲を発射させたとしか・・・いや、今はそんな事はどうでもいい! ロシナンテ中佐と人魚の無事を確認しろ!!」
クレイオは牢の中にいる。
先に海兵に連れていかれたら面倒だ。
ロシナンテは身をひそめていたマストの影から出ると、胸に手を当てた。
「“解除”」
その言葉を唱えれば、途端にロシナンテの発する音が世界に届くようになる。
それまで無音で立ち上がっていた炎が、唸り声のような音をたてながら燃え盛り始めた。
「ロシナンテ中佐!!」
ロシナンテの姿を見つけた海兵が、青ざめながら走ってきた。
まさかこの惨事の犯人が目の前の上官だとは思ってもいないのだろう。
「大変なことになりました、大砲が暴発して───」
「ああ・・・この船はもうもたない。直ちに避難しろ」
「ひ、避難・・・軍艦を捨てる、ということでしょうか」
「そうだ、捨てよう」
「正義の門」で守られているとはいえ、このグランドラインの海の真ん中で・・・?
それは自殺行為だと、海兵は怯んだ。