第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
波が船腹を押すたびにギシギシと音を立てながら傾く、船底の牢。
囚人の手足を繋ぐための鎖が床に打ち付けられており、手錠と足枷は悪魔の実の能力者でも大丈夫なように海楼石で出来ている。
だが、それをクレイオにはめることだけは、ロシナンテが絶対に許さなかった。
「クレイオ、おれだ」
鉄格子の扉を開けて中に入ると、牢の隅に置いてあった椅子に座っていたクレイオが顔を上げた。
「ロシナンテ」
「こんなところに閉じ込めてごめんな。指令に従わねェと怪しまれるから・・・」
「私は大丈夫」
“それより貴方こそ大丈夫?”と言いたげなクレイオ。
ロシナンテは優しく微笑みながら、彼女の頬をそっと撫でた。
「今、正義の門をくぐったところだ。もう少ししたら、海軍本部との通信を切る」
「・・・ロシナンテ・・・本当にやるの?」
「当たり前だろ!」
安心させようとしてくれているのか、大きな笑顔を見せてくれる。
けれど、それが逆に苦しい。
「私は貴方が心配・・・」
「おれなら大丈夫だ! これでもけっこう強いんだぞ」
「・・・・・・・・・」
そうじゃない。
何か・・・嫌な予感がする。
「それに言っただろ。おれは命に代えてもお前を守るって」
「命・・・」
私はただ、貴方と一緒にいたいだけなのに・・・
もし貴方の命が犠牲になったら、私はたとえ助かったとしても、インペルダウンよりもつらい“地獄”の中で生きていくことになると思う。
ロシナンテ。
貴方はどうして、私に“泣いていい”と言ってくれないの?
天竜人の望みを叶えれば、きっとインペルダウン行きは無くなる。
そうすれば貴方だって、私のために命を懸ける必要が無くなる。
「ロ、ロシナンテ・・・貴方が許してくれるなら、私は泣いても・・・」
「クレイオ」
言葉を遮るようにロシナンテの腕がクレイオの身体を抱きしめた。
「人間の欲望は際限がない。一粒の真珠を渡せば、次・・・その次・・・と求められ続ける。そうなればいずれ必ず、真珠の奪い合いが起こる」
そして、争いの種を生み出したと、君は必ず自分を責める。