第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
カームベルトの海中深くに造られたインペルダウンに行くにはまず、海軍本部マリンフォードにある「正義の門」をくぐり、渦状の海流に乗らなければならない。
「開門!!!」
その高さ、数十メートルはあるか。
海流すらも左右する巨大な門は、海軍本部内にある動力室の操作で開閉される。
世界政府のマークが描かれた両開きの門が、ゆっくりと海水を押し広げながら軍艦がやっと一隻通れるだけの隙間を作っていく。
ここをくぐって海流に乗ったら、数時間もしないでインペルダウンに到着するだろう。
次の「正義の門」に到着するまでに、“全て”を終わらせなければ。
「ロシナンテ中佐、通行許可が下りました」
「よし、行こう」
“司法の島”エニエス・ロビーからインペルダウンへ囚人を護送する以外に、一般の海兵がこの海流を通ることはほとんどない。
インペルダウンの署員たちは変わり者ばかりだと聞くが、普通の人間があの大監獄の有様を見たら強いショックを受けてしまうと言われている。
そんな地獄をクレイオに見せるわけにはいかない。
「噂には聞いていたが、すごい海流だな」
見た目にも分かる水のうねり。
だが、門の開閉具合でインペルダウンまでの最短ルートが確保される。
「無事に海流に乗ったようです」
予定通りの海流に船が乗り、航海士を任されている海兵が少しホッとした様子で報告をしてきた。
変わりに、ロシナンテの緊張が高まる。
「天候も問題ないですし、このまま順調にいけば2時間ほどで到着します」
「分かった、ありがとう」
マリンフォードから十分に距離を取ったら実行しよう。
あまりに近すぎるとすぐに救援がきてしまう。
「・・・人魚の様子を見てくる」
本当はずっと一緒にいてやりたかったが、ロシナンテには海兵という立場がある。
それにクレイオは天竜人の命令に逆らい続けた罪があるとして、護送の間は牢の中に閉じ込めておくよう指令が出ていた。