第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
船を沈没させる。
それは海を守る海兵として、一番やってはいけない事かもしれない。
「ロシナンテ・・・貴様、自分が今、何を言っているのか分かっているのか?」
「はい。だからこうして、センゴクさん・・・いや、センゴク大将殿にご報告申し上げています」
ロシナンテは両手を後ろで組み、姿勢を正した。
「マリンフォードの“正義の門”をくぐってから、インぺルダウンのあるカームベルトに入るまでの間に、人魚を乗せた護送船を跡形もなく爆破させます」
エニエス・ロビー
海軍本部
インぺルダウン
トライアングル状に位置するこの三つの機関の間の海は、変則的な渦潮がうずまいている。
海軍の軍艦以外は通る事のない海域だ、何か“非常事態”が起こっても、助けがくるまでに相当の時間がかかるだろう。
「それだけの大事故ならば、人魚はもちろん、護送にあたっていた海兵も死ぬでしょう。ただ、爆破の衝撃で遺体は粉々になり、生存確認は不可能」
「お前・・・まさか・・・」
「ロシナンテ中佐はそこで殉死します」
いくら人魚を助けたいからといって、軍艦とともに自分も海の藻屑となるつもりなのか?
「おれがそんなバカげた無駄死にを許すと思うか!」
「無駄死にではありません。そもそも、死ぬのは“ロシナンテ中佐”です」
「どういう事だ・・・!」
センゴクは苛立ちを隠せず、机を激しく叩いた。
おそらくこんなに険しい形相は、ロシナンテには一度も見せたことがないかもしれない。
それだけ目の前の男が心配で、そして腹立たしかった。
「おれは護送船に乗る他の海兵を一人も殺すつもりはありません。事前に救命ボートで脱出させるつもりです」
「当たり前だ、そんな茶番で大事な海兵を失うわけにはいかん!!」
「そして誰かにおれとクレイオだけが船内に残ったことを確認させてから・・・おれ達も脱出します」
そうすれば犠牲者を一人も出さずに済む。