第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
クレイオがインぺルダウンに連れていかれる。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
だが、どうする?
彼女を連れて逃げても、天竜人は即座にロシナンテを指名手配させ、海軍は全総力をあげて探し出すだろう。
世界が相手では勝てない。
そう思った時、ロシナンテの心に一つの覚悟が生まれた。
“───おれはここで死にます”
ロシナンテがそう言った瞬間、センゴクは明らかに顔色を変えた。
我が子同然に育ててきた男が、軽はずみに命を捨てると言っている。
それを平然と許せる者などいない。
「バカな事を言うな!」
センゴクは立場を忘れて声を荒げた。
否。
立場を忘れているというのなら、先ほどロシナンテにクレイオのインぺルダウン送りを伝えた時に“正気ではない”と言った時からそうなのかもしれない。
血は繋がっていなくとも、ロシナンテは大切な“家族”。
海軍本部最高戦力とされる大将の肩書きを与えられた男ですら、ロシナンテの前では一人の人間としての感情をむき出しにする事ができた。
「死ぬとはどういうことだ、ロシナンテ!」
「・・・・・・・・・」
「まさか、ワノ国の侍のように腹を切って詫びるという意味ではないだろうな!!」
海軍本部中佐の命一つを差し出す代わりに、クレイオの釈放を願うというのか。
バカげている。
「違います」
ロシナンテは静かな声でそれを否定した。
だが、今から言う事はワノ国の“切腹”よりも常軌を逸する事かもしれない。
深呼吸を一つ。
そしてセンゴクを真っ直ぐと見つめた。
「おれは護送船を沈めるつもりです」
一瞬にして、空気が凍り付いた。