第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
護送は明日9時。
クレイオとの時間はあまり残されていない。
「クレイオ」
部屋のドアを開けると、水槽の中に人魚の姿が見えなかった。
心臓が嫌な音をたて、慌てて近寄る。
「クレイオ!? どこだ!!」
まさか、自分がマリンフォードに行っている間にどこかへ連れて行かれたのか?!
最悪な事態が頭を過った瞬間、水槽の隅から震える声が聞こえてきた。
「ロシナンテ・・・」
「クレイオ!!」
岩陰に隠れていたらしく、おずおずとガラスの前まで泳いでくる。
その顔は恐怖で引きつっていた。
「さっき・・・執事から聞いた。私は明日、インぺルダウンという監獄に連れていかれるんでしょう?」
そこがどれだけ恐ろしい場所か、すでにもう聞いているようだ。
可哀想に、細い身体が恐怖で震えている。
その姿に胸が張り裂けそうになるのに、かけてやれる言葉が見つからない。
「クレイオ・・・上がっておいで」
水槽の横のハシゴを昇り、水に向かって手を差し伸べる。
何度そうやって人魚が上がってくるのを待っただろう。
その身体を抱き上げ、ハシゴを踏み外さないように降りただろう。
だがそれももう、今夜が最後。
「空を見に行こう」
おれは君の幸せを願っている。
君に涙を流して欲しくないから
君がドレスローザを守って欲しいと言ったから
───おれはこの命を捨てることにするよ。
人魚の手がロシナンテの腕を掴んだ。
抱き上げられた彼女は、安心しきったように海兵の胸に頬を寄せる。
外に出れば、一面に輝く星空。
その中央に銀色の月が輝いていた。