第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「ウェディングドレスは最高級のもの、そして宝飾品には“人魚の涙”をふんだんに使えとご指示いただいています」
「・・・・・・・・・」
ということはつまり、一粒では足りないという事か・・・
自分の権力と財力を誇示するために、クレイオの涙を利用しようとしている天竜人。
ロシナンテは怒りのあまり拳が震えていた。
しかし、その感情を押さえつけ、小さく深呼吸をする。
───センゴクさんと約束したのだから・・・
「任務を果たせなかった事については謝罪します」
“約束しろ、ロシナンテ”
「クレイオは私が責任持って必ずインぺルダウンまで護送します」
“それほどの覚悟があるならば・・・”
「どうか私を信じてください」
“お前の命と引き換えに、クレイオを必ず助けろ”
迷いのないロシナンテの瞳に、執事は何を感じたのか。
それまでの薄ら笑いが初めて消えた。
「貴方に護送船の指揮を執ってもらうのは、懸念が無いわけではありませんが・・・」
推し量るような鋭い視線が、ロシナンテの全身を隈なく這う。
何かを企んでいるなら、今ここで暴いてやる。
そう思っているのだろう。
「大将センゴク直々の推薦とあらば、こちらも断る理由はありませんからね」
“失敗”は許されない。
失敗とはつまり、ロシナンテがクレイオの逃亡を手助けすること。
「失敗した時は、クレイオの代わりに貴方がインぺルダウンに入ることになる。まぁ、彼女の価値と貴方一人の命では、まったく釣り合いが取れませんがね」
夕日が差し込むマリージョアに、冷たい風が吹き付けた。
「くれぐれもよろしくお願いしますよ」
執事は軽く会釈をすると、ロシナンテに背を向け、館の方へ歩いていった。