第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
“私の涙は争いと悲劇しか生み出さない。私が泣けば、“真珠の人魚”の悲しい歴史が繰り返されてしまう”
まだ幼さすら残る人魚は、とても強い心を持っていた。
“どうしてロシナンテが泣くの?”
とても優しい心を持っていた。
“君は何一つ悪いことをしていないのに、こうしてマリージョアに連れてこられ、拷問を受け続けてきた”
“人間は己の欲で君を傷つけているというのに、君は争い事や悲劇が繰り返されないように涙を堪えている”
代わりに泣き続けるおれを不思議そうに見つめながら、君はこう言った。
“不思議・・・貴方の涙は真珠になることがないのに・・・私にはとても大切なものに思える”
自分の無力さに悩むおれを優しく見つめながら、君はこう言った。
“たとえ人間の欲望を助長し、争いを生んだとしても・・・貴方のための真珠なら、私はいくらでも流すことができる”
クレイオ・・・
そんなお前のためにおれは一体・・・何ができる・・・?
「ロシナンテ! これはもう決定事項だ。私にはどうすることもできん」
「・・・センゴクさん・・・」
「お前は優秀な海兵だ。私としても、一日でも早くマリンフォードに戻ってきて欲しい」
海兵としての務めを果たすため。
自分が本来いるべき場所は、マリージョアではない。
それも分かっていた事。
“おれは確かにドレスローザを守りたい。それは偽りのない思いだ”
“情けねェ話だが、おれには両方を守る力がない。権力もない。だから・・・”
“おれは・・・ドレスローザを諦める”
認めよう。
全てを納得してそう言ったわけじゃない。
“父上、ドレスローザってどんなところ?”
“私も行ったことはないが、我々ドンキホーテ一族にとっての故郷だよ”
おれと父上の会話を聞いていたドフィはあの時、つまらなそうに鼻を鳴らしていた。
“フン、おれ達の故郷はマリージョアしかないえ”
その“故郷”から拒絶されたドフィは・・・恨みの全てをドレスローザにぶつけるかもしれない。