第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「インペルダウン・・・冗談でしょう?」
「冗談ではない。明日、クレイオをマリージョアからインペルダウンへ護送することになっている」
「ちょっと待ってください、訳が分かりません。天竜人は真珠が欲しいのではないんですか?」
「だからこそだ」
いつまでたっても涙を流さないクレイオに業を煮やした天竜人は、世界で一番の拷問を与えることができる場所へと移すことを決めた。
インペルダウンに送られる囚人たちは、そのほとんどが終身刑。
1年や2年程度で死なないよう、あらゆる苦痛を絶え間なく、永遠に与える術を熟知している。
紅蓮地獄
猛獣地獄
飢餓地獄
焦熱地獄
極寒地獄
人間が想像し得る限りの“地獄”がそこにある。
「天竜人の権限でそこに送り込み、涙を流すまで釈放しないと言えば、さすがのクレイオも折れざるを得ないだろう」
なんと・・・卑劣で無慈悲な仕打ちだ。
人間とはなんと残酷な生き物だろう。
せっかくクレイオはその“人間”に対して、少しずつ心を開いてきているというのに・・・
「ふざけるな・・・クレイオには何の罪もないんだ!!」
ロシナンテが声を荒げるのも無理はなかった。
人間の勝手な欲望で、彼女を地獄に落とすわけにはいかない。
「罪ならある。天竜人の意に背き続けているという、大罪がな」
「センゴクさん、正気で言っているんですか?!」
「・・・正気で言っていると思うのか?」
バンッと机を叩く大きな音が響いた。
だがそれはロシナンテではなく、センゴクの拳が叩いたもの。
「正気で・・・私がこんなバカげた指令を出せると思っているのか」
「セン・・・ゴクさん・・・」
天竜人は世界政府の創造者。
世界政府の指揮下に置かれる海軍の、一大将でしかない自分にはこの決定を覆す事はおろか、意見する事すら許されていない。
“正義”とはいったい・・・どこにあるのか。
「私は正気ではないぞ、ロシナンテ・・・だが、正義のために正気を捨てることも・・・また正義」
悔しそうに歯ぎしりをしながら言ったセンゴクを見て、ロシナンテの背筋がゾクリとした。