第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
項垂れていると突然、背後のドアが豪快に開いた。
この部屋のドアをそのように扱う人間は一人しかいないので、ロシナンテは振り返りながら敬礼をした。
その弾みでファイルが数冊、床にバラバラと落ちてしまう。
「セ、センゴクさん!」
「すまんすまん、待たせたな! おつるちゃんに捕まってた」
センゴクは笑っていたが、ロシナンテの足元に落ちているファイルに気が付くと、微かに眉をひそめた。
ドフラミンゴの犯罪記録。
やはりロシナンテにとって彼の動向は目を背けていられないのだろう。
「・・・今日お前を呼んだのは、ドフラミンゴの一件ではない」
「兄の・・・事ではないのですか?」
重要な話というから、てっきりその事だと思っていた。
センゴクは難しい顔をしたまま黙りこくると、机の上に置いたままになっていた冷めた緑茶を啜る。
「──クレイオの件だ」
その瞬間、ロシナンテの心臓がドキリと大きく音を立てた。
任務に就いてから数カ月。
彼女に笑顔を取り戻せはしたものの、本来の役目を果たせていない。
「おれは・・・解任ですか?」
両手の拳を震わせながら問いかけると、センゴクは溜息を一つ吐いた。
「そうとも言えるな」
「・・・?」
曖昧なその言葉の意図が分からない。
そうとも言える・・・ということは、実質的にはそうであっても、名目上は“解任”されていないということか?
「センゴクさん、それはいったいどういう事でしょうか?」
「・・・今朝ほど、マリージョアより通達があった」
机の上に置かれた、一枚の紙。
そこに書かれている文字が目に入った瞬間、ロシナンテの表情が変わった。
「“真珠の人魚”クレイオをインペルダウン送りとする」
───“この世の地獄”と呼ばれる、世界一の大監獄へ。